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大阪地方裁判所 昭和32年(行)90号 判決 1961年12月05日

原告 株式会社 半田カバン店

被告 大阪国税局長

訴訟代理人 山田二郎 外四名

主文

被告が原告に対し昭和三二年七月三一日付でなした

一、昭和二七年一二月二二日から昭和二八年一一月三〇日までの事業年度分法人税につき、原告の所得金額を六六九、〇〇〇円と認定した審査決定中、五一七、二三九円を超える部分を取り消す。

二、昭和二八年一二月一日から昭和二九年一一月三〇日までの事業年度分法人税につき、原告の所得金額を六九六、六〇〇円と認定した審査決定中、五一三、二〇六円を超える部分を取り消す。

三、昭和二九年一二月一日から昭和三〇年一一月三〇日までの事業年度分法人税につき、原告の所得金額を六四〇、〇〇〇円と認定した審査決定中、五〇二、〇六二円を超える部分を取り消す。

原告のその余の請求は棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その一を被告の各負担とする。

事実

(双方の申立)

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し昭和三二年七月三一日なした一、昭和二七年一二月二二日から昭和二八年一一月三〇日までの事業年度分法人税の再々更正処分の審査の決定はこれを取り消す。二、昭和二八年一二月一日から昭和二九年一一月三〇日までの事業年度分法人税の再々更正処分の審査の決定はこれを取り消す。三、昭和二九年一二月一日から昭和三〇年一一月三〇日までの事業年度分法人税の更正処分の審査の決定はこれを取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を、被告指定代理人は原告の請求を棄卸する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

(請求の原因)

一、原告は、カバンおよび文具販売を主として営む資本金一、〇〇〇、〇〇〇円の株式会社で、昭和二七年一二月二二日その設立登記を受け、同二八年一月より事実上の営業を開始した。

二、原告は、昭和二八年一月一日から同年一一月三〇日までの事業年度分としての法人税について、所轄和歌山税務署長に対し、その所得金額を九四、五八五円と確定申告したところ、同税務署長は、原告の昭和二七年一二月二二日から昭和二八年一一月三〇日までの事業年度分(以下第一事業年度分という)の所得金額として二一四、一〇〇円と更正決定し、更に昭和三一年二月二日右所得金額を六八七、七〇〇円と再更正決定してきたので、同年同月二三日同税務署長に対し、再調査請求をなしたが、同税務署長は同年四月三〇日付をもつてこれを棄却した。同税務署長は、引き続き同年五月九日付をもつて、原告の前記第一事業年度分の所得金額を七〇九、七〇〇円と再々更正決定してきたため、原告はこれを不服とし、同月三一日被告に対して審査の請求を行つたところ、被告は昭和三二年七月三一日右再々更正決定額中六六九、〇〇〇円を超える部分を取り消す旨の審査決定をした。

三、原告は、昭和二八年一二月一日から昭和二九年一一月三〇日までの事業年度分(以下第二事業年度分という)の法人税について、前記税務署長に対し、その所得金額を二三七、七四〇円と確定申告したところ、同税務署長は、右所得金額をまず、三〇四、五〇〇円と更正決定し、更に昭和三一年二月二日八一二、四〇〇円と再更正決定してきたので、同年同月二三日同税務署長に対し再調査請求をなしたが、同税務署長は同年四月三〇日付をもつてこれを棄却した。同税務署長は、引き続き同年五月六日付をもつて、原告の前記第二事業年度分の所得金額を一、一〇〇、九〇〇円と再々更正決定してきたため、原告はこれを不服とし、同月三一日被告に対して審査の請求を行つたところ、被告は、昭和三二年七月三一日右再々更正決定額中、六九六、六〇〇円を超える部分を取り消す旨の審査決定をした。

四、原告は、昭和二九年一二月一日から昭和三〇年一一月三〇日までの事業年度分(以下第三事業年度分という)の法人税について、前記税務署長に対し、その所得金額を一六四、五〇〇円と確定申告したところ、同税務署長は、昭和三一年五月九日これを一、〇五三、五〇〇円と更正決定したため、同年六月一日同税務署長に対し再調査請求をなしたが、同税務署長は同年同月三〇日付をもつてこれを棄却した。

右決定に対し、原告は直ちに被告に審査の請求を行つたところ、被告は、昭和三二年七月三日右更正決定額中、六四〇、〇〇〇円を超える部分を取り消す旨の審査決定をした。

五、しかしながら、原告の本件係争各事業年度分における真実の所得金額は前記各確定申告額のとおりであるから、これを超える原告の所得金額を認定した被告の前記各審査決定は違法であり、これが取消しを求めるため本訴に及ぶ。

(被告の答弁ならびに主張)

一、原告の請求原因事実中、一ないし四は、原告が昭和二八年一月から営業を開始した事実を除いて(同事実は不知)すべて認める。五は争う。原告の本件係争各事業年度の所得金額はそれぞれ被告の審査決定額を下らないから、被告の処分には何らの違法もない。

二、原告は和歌山市内の繁華街通称ぶらくり丁入口付近の営業上最も良好なところに面し、間口約二間、奥行約三間の店舗を有して鞄、袋物等の販売を業としている同族会社であるが、所轄歌山税務署長は、調査の結果、原告が和歌山信用金庫等に後記別口預金を有し、これらを利用して売上等の利益を隠ぺいして法人税の脱洩を図つている事実を発見したので、やむなく法人税法箪三一条の四、二項の規定に基き、右別口預金中明らかに売上の隠ぺいと認められる金額を原告の申告売上額に加算し、これを基準に本件係争各事業年度の所得金額を算出し、原告主張のような各決定をしたところ、これに対して原告は審査の請求をなしてきたので、被告は所定の協議手続を経たうえ、一部計算を訂正し、後記のとおりの各審査決定を行つた次第である。

三、ここで、本件係争各事業年度における原告の法人所得金額決定経過について詳述すれば、

(一)第一事業年度分について

1 原告は昭和二九年二月一日所轄和歌山税務署長に対して、所得金額九四、五八五円とする法人税確定申告書を提出した。

2 これに対し同税務署長は、申告所得金額に減価償却超過額三一、九〇一円、社長貸付金八〇七四五円、未収利息七、五五一円を加算し、損金に計算した法人税(申告に当つて原告が損金不算入と自ら加算していたもの)の計算誤謬六五四円を減算して、課税標準を二一四、一〇〇円(端数二八円切捨)と算出し、この旨昭和二九年二月二八日原告に通知した。

3 その後、同税務署長は職員の森本伸事務官を原告会社に赴かせて調査したところ、原告会社の売上は九九%まで現金売上であるにもかかわらず、その場には現金出納帳はもとより現在記帳中の帳簿らしきものは何一つ置いてなく、一カ月ないし三カ月毎に一括してレヂペーパー、領収書、納品書等により記帳および伝票の作成をすべて計理士に依頼している状況であり、いわゆる現金管理を行つている事蹟は全く認められなかつた。このように現金出納帳が相当期間遅れて記帳される場合には、いきおいその記帳は不正確なものとなり、また売上の記帳洩れが出るのも当然であるから、単にその記帳のみからは企業の実体を把握するのは極めて困難であるところ、たまたま原告会社のレヂスターの中から原告会社の帳簿に記帳のない和歌山信用金庫の半田喜代子、森田美有喜、半田貞雄名義の月掛預金、月掛預金が発見され、天井裏からは有価証券が見つかり更に調査の結果、前記信用金庫に則岡花枝名義の普通預金があることが判明した。

4 そこで前記税務署長は推計によつて原告の所得金額を計算することとし、前記別口預金の当期末残高二七四、六六九円およびその預金の出金分のうち使途不明のもので代表者個人が費消したと認められたもの一二〇、〇〇〇円、帳簿に記載されていない有価証券(いわゆる簿外資産)七九、〇〇〇円をさきの更正所得金額に加算し、原告の所得金額を六八七、七九七円と再更正決定し、この旨昭和三一年一月三一日原告に通知した。

5 これに対し原告は、昭和三一年二月二三日前記税務署長に再調査請求をしたので、同税務署長はあちためて調査を行つたところ、かえつて太田京子名義である二口預金を発見するにいたつたから、昭和三一年四月三〇日法人税法第二五条第七項第三号の規定により青色申告書提出承認を取り消すと共に、再調査請求を棄却し、この旨原告に通知した。

6 そして、前項別口預金の出現により原告の所得金額の正確な把握が困難となつたので、前記税務署長はあらためて次のとおり推計計算した。

すなわち、前記別口諸預金の当期中入金額二、九二一、九二〇円のうち、売上額を隠ぺいしたと認められる二、〇八七、三四三円を原告の申告した売上額六、六〇六、六七九円に加えて算出した推計売上額八、六九四、〇二二円に、営業利益率八、九%(前記税務署長において妥当と認めたもの)を適用して営業利益金額を七七三、一、七六七円と計算し、これに営業外収益四二、六三〇円、営業外費用一〇六、六九四円を加除して算出した七〇九、七〇三円を原告の所得金額と再々更正決定し、この旨昭和三一年五月九日原告に通知した。

7 前記再調査決定に対し原告は、昭和三一年六月一日被告に審査の請求をしてきたので、被告は調査した結果、後記四記載のとおり審査決定し、この旨昭和三二年七月三一日原告に通知した。

(二)  第二事業年度分について

1 原告は昭和三〇年一月三一日所轄和歌山税務署長に対して、所得金額二三七、七四〇円とする法人税確定申告書を提出した。

2 これに対し同税務署長は、申告所得金額に法人税府県市町村民税三六、八九〇円、減価償却超過額二二四円、連専積立金一九、七三九円、売上除外四七、九九六円、利益準備金直接積立二〇、〇〇〇円、税金引当金直接積立四五、〇〇〇円、繰越金直接積立七、五九四円、過少申告加算金五四〇円、認定利息八、二五二円を加算し、仮払法人税、仮払府県市町村民税三六、八六六円、架空仮払金受入認容額七二、五九四円を減算して、課税標準を三〇四、五二〇円と算出し、この旨昭和三〇年三月三一日原告に通知した。

3 その後同税務署長は、あらためて調査した結果、前記三、(一)、3記載の状況ならびに別口預金の存在が判明したので、右別口預金の期間中増加高一四九、二二三円およびその預金の出金分のうち使途不明のもので代表者個人が費消したと認められたもの四八一、三七五円、簿外の有価証券一五〇、〇〇〇円をさきの更正所得金額に加算し、これより右別口予金の前記末残高のうち、当期中減少額二二四、六六九円および更正所得金額計算の際売上除外として加算した四七、九九六円を減算して、原告の所得金額を八一二、四五三円と再更正決定し、この旨昭和三一年一月三一日原告に通知した。

4 これに対し原告は、同年二月二三日前記税務署長に再調査請求をしたので、同税務署長はあらためて調査を行つたところ、更に前記三、(一)、5記載の別口予金を発見したため、同年四月三〇日再調査請求を棄却し、この旨原告に通知した。

5 ここで前記税務署長は、前記別口諸預金に基き次のとおり原告の所得金額を推計計算した。

すなわち、前記別口諸預金の当期中入金額総計三、二八九、八五〇円のうち、売上額を隠ぺいしたと認められる一、七三四、二二三円を原告が申告した売上額八、六〇六、一六三円に加えて算出した推計売上高一〇、三四〇、三八六円に、同所同業種法人である訴外株式会社カミヤの営業利益率一二、八#イ(調査済)を適用して営業利益金額を一、三二三、五六九円と計算し、これに営業外収益一〇、九〇七円、営業外費用二三三、四九六円を加除して算出した。一〇、一〇〇、九八〇円を原告の所得金額と再々更正決定し、この旨昭和三一年四月三〇日原告に通知した。

6 これに対し原告は、昭和三一年六月一日被告に審査の請求をしてきたので、被告は調査した結果、後記四記載のとおり審査決定し、この旨昭和三二年七担三日原告に通知、した。

(三)  第三事業年度分について

1 原告は、昭和三一年一月三一日前記税務署長に対して、所得金額一六四、五六九円とする法人税確定申告書を提出した。

2 これに対し同税務署長は、前記別口諸預金に基いて次のとおり更正決定した。

すなわち、当期中においては、前記別口預金の入出金が著しく変動しており、入金のみの検討では正確な所得金額の把握は困難と認められたので、当時原告会社は設立第三期目を迎え、ようやく経営状況も向上しつつあつたことから、前事業年度との物価趨勢および権衡を勘案し、原告の対前記営業経比率平均九九、六%に物価趨勢比率九五、一%を乗じて算出した当期売上高趨勢比率九四、七%を前記の売上高一〇、三四〇、三八六円に乗じて算出した金額九、七九二、三四五円に前記訴外株式会社カミヤの営業利益率一二、八%を適用して営業利益金額を一、二五三、四二〇円と計算し、これに営業外収益一三、五〇五円、営業外費用二一三、三九三円を加除した一、〇五三、五三二円を原告の所得金額と決定し、この旨昭和三一年四月三〇日原告に通知した。

3 これに対し原告は、同年六月一日前記税務署長に再調査の請求をしたので、同税務署長は、調査のうえ同年同月三〇日右再調査請求を棄却し、この旨原告に通知した。

4 これに対し原告は、同年七月二七日被告に審査の請求をしてきたので、被告は、調査した結果、後記四記載のとおり審査決定し、この旨昭和三二年七月三一日原告に通知した。

四、被告は、原告の前記各審査請求に対し、所轄和歌山税務署長が原告の法人税所得金額を推計によつたのは正当であり、またその計算方法もおおむね妥当と認めたが、なおその計算において一部訂正を要するところがあつたので、あらためて次のとおり本件係争各事業年度分の原告の所得金額を計算し、それぞれ審査決定を行つた。

(一)  第一事業年度分<表 省略>

(二)  第二事業年度分<表 省略>

五、つぎに、被告の右各審査決定における推計計算が合理的かつ正当なものである点について論究する。

原告の所得金額算出において推計計算によること、原告の利益率、営業外の損金および益金は、原告において何ら異存がないところであるから、以下唯一の争点である売上金額の算定について詳論する。

まず、前記和歌山税務署長の数度の調査で発見した前記別口諸預金つまり、和歌山信用金庫の太田京子、則岡花枝、半田喜美代、森田美有喜、半田貞雄名義の普通預金、月掛および日掛預金、ならびに紀陽銀行の太田京子名義の普通預金は、次に述べるような事情により、原告がその簿外売上金を隠ぺいするために利用していることが判明した。

すなわち、右各預金については、被告部下の担当係官が原告会社の代表取締役半田貞雄および経理事務担当の計理士に対し再三にわたつて説明を求めたが、言を左右にされてついに具体的な説明が得られなかつたこと、そこで右調査担当係官は進んで前記信用金庫、銀行等について調査したところ、右預金は架空名義(太田京子、則岡花子、森田美有喜分)ないし預金源のはつきりしないものであつたこと、これら別口預金が発見された当時原告会社ないし前記半田貞雄はこれが全く他人のものであると云つて極力その真実の預金者を隠そうとしたこと、前記半田貞雄の家族の収入は、原告会社より受け取る月給、店舗貸付料ならびに株式の売卸金および配当金以外にないと考えられるところ、半田貞雄の家族が原告会社より受け取る収入は月額合計五〇、〇〇〇円(半田貞雄の月給二五、〇〇〇円、妻喜美代の月給一五、〇〇〇円、店舗の貸付料一〇、〇〇〇円の総計、なお、右月給額は名目額であるから源泉所得税が差し引かれるので実際の手取額は更に下廻るわけである)であり、一方同人の家族は関西大学在学中の長男、中学校に通学中の二入の女児を含む五入家族であれば、その生活費は経験則上五〇、〇〇〇円は必要と認められるから、とても前記別口預金をする程の余裕はないこと、半田貞雄等の個人予金としては別に三井銀行和歌山支店、和歌山黒田郵便局等の預金の存在が認められ、これは原告の売上金調査の考慮外にしていること、原告会社は同族会社で現金売上が売上の大半でありながら、その記帳洩れがあること、前記別口諸預金は原告会社の記帳に基く銀行勘定帳と別個に継続的にされていること、以上の諸事実が認められ、右事実により前記別口預金には原告の簿外売上金が入金されていると判断するのは極めて合理的である。

このように前記別口預金は一応原告の簿外売上を入金したものと考えられるのであるが、さらに被告は、前記別口預金中、原告の売上と関係のないことがはつきりしている分(預金利息、株式配当金、株式売却代金、日掛預金から月掛預金等に振り替えられている分)はもちろん、個人資産の運用分ではないかと少しでも想像できる分(法人成立日の預金、法人成立直後のクーポン支払日の預金、金額が多額である点から個人預金の振替えではないかと考えられる分)についても全部控除することとして確実を期し、その差引入金額を原告の申告した売上額に加算して本件係争各事業年度分の売上金額を算定しているのであるから、被告において余分に売上控除を行なつているおそれはあつても、売上金額を過大に算定していることは決してない。

各事業年度毎の売上控除額ならびに売上金額に加算した差引入金額の明細は左のとおりである。

(一)  第一事業年度分

(1) 和歌山信用金庫太田京子名義(乙第一号証の二)入金額合計二、五四六、九二〇円

控除額

<表 省略>

差引売上を入金したと認められるもの

一、五三四、五一〇円

(2)  同金庫則岡花枝名義(乙第一号証の三)入金額合計三二五、〇〇〇円

控除額昭和二八年一〇月一四日二〇〇、〇〇〇円(昭和二八年一〇月一三日南海電鉄一五〇〇株売却代金二三七、〇〇〇〇円のうち入金分)

差引売上を入金したと認められるもの

一二五、〇〇〇円

(3)  同金庫月掛日掛預金

L一〇六 半田喜美代名義(乙第一号証の四)

三、三〇〇円

G一六七 右同 (乙第一号証の五)

二二、〇〇〇円

I  四七 半田貞雄名義 (乙第三号証の二)

三、三〇〇円

G一四六 森田美有喜名義(乙第三号証の四)

二二、〇〇〇円

合計 五〇、六〇〇円

(4)  以上売上を入金したと認められたものの総計

一、七一〇、一一〇円

(二) 第二事業年度分

<表 省略>

差引売上を入金したと認められるもの

六五〇、〇〇〇円

(3) 和歌山信用金庫則岡花枝名義(乙第一号証の三)入金額合計二五五、〇〇〇円

(4)  同金庫月掛、日掛預金

L一〇六(乙第一号証の四) 三三、〇〇〇円

G一六七(乙第一号証の五) 二七、五〇〇円

O 九五(乙第三号証の二) 六、〇〇〇円

I 四七(乙第三号証の三) 二九、七〇〇円

G一四六(乙第三号証の四) 二七、五〇〇円

以上月掛預金

B二七五半田貞雄名義日掛預金(乙第三号証の五)中の差引入金額 二五、五二三円

(差引計算しているのは、出金額が月掛預金に振り替えられているが、この分は月掛預金として既に計上済であるため) 合計 一四九、二二三円

(5)  以上売上を入金したと認められるものの総計

一、八三四、二二三円

(三) 第三事業年度分

(1)  和歌山信用金庫太田京子名義(乙第一号証の二)入金額合計 五九〇、〇〇〇円

(2)  紀陽銀行本店太田京子名義(乙第二号証の一)入金額合計 七七〇、七七五円

控除額

<表 省略>

差引売上を入金したと認められるもの

六五六、〇〇〇円

(3)和歌山信用金庫B二七五半田貞雄名義日掛預金(乙第三号証の五)中の差引入金額

一一、一三五円

(差引計算をした理由は、前項日掛預金の説明と同じ)

(4)  同金庫月掛預金

L一〇六(乙第一号証の四) 三三、〇〇〇円

G一六七(乙第一号証の五) 二七、五〇〇円

O 九五(乙第三号証の二) 三〇、〇〇〇円

I 四七(乙第三号証の三) 四九、五〇〇円

G一四六(乙第三号証の四) 二七、五〇〇円

合計 一六七、五〇〇円、

控除額……日掛預金の前期末残高を月掛預金に振替入金しているもの

二五、五二三円

差引売上を入金したと認められるもの

一四一、九七七円

(5)  売上を入金したと認めちれるものの総計

一三九九、一一二円

以上のとおり、本件各審査決定は、右別口預金中の差引入金額と原告の申告売上額の合計額内において原告の売上金額を算定しているから、違法ではない。

六、なお原告は、前記別口預金はいずれも個人資金の運用であると主張するが、次のとおり、その理由がない。

まず、原告は、原告会社の代表取締役である半田貞雄が、妻の姉である東山あや子からの依頼に基き、和歌山市黒田郵便局の郵便貯金を集めるため協力し、その集めた金を一時的に前記予金口座に出し入れしたというのであるが、それは原告会社設立以前にほんの二、三回利用したに過ぎないのであつて本件係争各事業年度には全く関係がない。

また、原告は、株式売買のため、その資金を右各予金より出し入れしたと主張するが、原告会社設立後に行つた株式売買は甲第六号証の三件のみで、株式売却代金中右各預金に入金されているものは、前述のとおり、すべて入金額より控除している。

七、更に、被告の認定した原告の売上金額が正当であることは、次の理由によつても明らかである。

すなわち、大阪国税局において作成している統計資料(法人審理提要)により原告の売上金額を推計してみると、

(一) 第一事業年度分

右法人審理提要によれば、原告会社のごとき営業の売上金額は稼働人員に此例し、稼働人員一人当り二、四〇〇、〇〇〇円を基準として計算し得ることとなつている。

そこで原告の場合について検討してみると、まず和歌山税務署の源泉所得税係において、所得税第三八条および四三条の規定に基ずいて調査決定した資料によれば、原告会社の稼働人員は、昭和二八年一月、二月は各月三名、三月五名、四月六名、五月~七月は各月五名、八月六名、九月~一一月は各月五名で延人員五三名、平均稼働人員は四、八名である。したがつて一年間平均売上金額は一一、五二〇、〇〇〇円となるが、第一事業年度の営業期間は一一ケ月であるから、結局原告の推計売上金額は一〇、五六〇、〇〇〇円と算定される。

(二) 第二事業年度分

前同様の推計方法により、和歌山税務署の源泉所得税係の資料によれば、平均稼働人員は四、七五名、平均売上金額は一一、四〇〇、〇〇〇円となる。

(三) 第三事業年度分

前同様の推計方法により、平均稼働人員は五、二名、平均売上金額は一二、八八〇、〇〇〇円となる。

以上結局本件各審査決定の基礎となつた原告の売上金額の推計計算は合理的かつ正当なものであり、したがつて被告のなした本件各審査決定には何らの違法はないものである。

(原告の答弁ならびに主張)

一、原告会社が和歌山市内の繁華街通称ぶらくり丁入口付近に所在することは認めるが、右場所が営業上最も良好なところとする被告の主張は争う。すなわち同場所には原告と同種営業をなす店舗が軒を接して存在し、そのため営業上の競争が激しく必然的にその利益率も極めて低率にならざるを得ないのである。

つぎに、被告等が法人税法第三一条の四、第二項の規定により本件係争各事業年度における原告の所得金額を推計計算によつて算出したことおよび各事業年度における同種企業標準利益率、営業外益金、同預金はいずれも認めるが右推計計算の基準たる売上金額は否認する。

すなわち、被告は、原告の申告した売上金額の上に、被告主張の別口預金中明らかに売上の隠ぺいと認められるとする金額を加算して、原告の売上金額を算定していると主張するが、なるほど原告代表者たる半田貞雄が同人名義、家族名義または架空名義で和歌山信用金庫および紀陽銀行本店等に月掛、日掛預金、普通預金の勘定を設けていることは事実だが、右はいずれも半田貞雄もしくは妻の個人資産の運用によるものであつて、被告主張のようにこれら別口預金を利用して原告の売上を隠ぺいした事実は全くない。

二、以下、前記別口預金を原告の売上の隠ぺいに利用しているとする被告の主張が如何に不当であるかについて説明しよう。

(一)  まず原告会社はその立地条件等から被告の予想するほど多額の売上をあげ得ない。つまり、原告会社は人口二〇万人に過ぎない和歌山市の一商店であるが、原告会社の所在するぶらくり丁入口付近には、丸正百貨店、野沢カバン店等原告と同業種の店が一〇軒ばかり櫛比している関係上、通常予想し得るような多額の売上が期待できないのみならず、前記丸正百貨店は市内唯一の百貨店で、原告会社の僅か五軒隣りに所在し、その強力な低れん販売政策によつて一般顧客を吸収されてしまうのみならず、小売店たる原告会社などにあつては顧客は常に値引きを要求するため、結果としては百貨店よりも薄利を余儀なくされる有様であつて、到底原告記帳の帳簿以上の売上は存しなかつた次第である。

(二)  しかるに被告は、前記別口預金を原告の売上の隠ぺいとみなすのであるが、そうであれば前記半田貞雄個人の財産の蓄積、運用は全く否定してしまうのであろうか。半田貞雄は明治四二年生れであるが、同人は大正一〇年一三才のときに印判彫刻の職人となり、じ来約三三年同業に励んだうえ、戦後直ちにカバン店を独立開店し、傍ら印判業も続け、原告会社設立の昭和二七年当時には従業員三名を雇傭して業務を行いつつあつた。その多年にわたる努力の結果、同人は、原告会社設立以前において、書面で確実に立証できる分だけでも(イ)株式会社三井銀行和歌山支店に合計八〇〇、〇〇〇円の定期預金(ロ)和歌山信用金庫に合計二〇〇、〇〇〇円の定期預金(ハ)持株式処分金四一〇、三六〇円(ニ)太田京子名義普通預金繰り越残高この合計一四〇〇、〇〇〇円以上を所有し、この他にも株式等の資産を有していた。そして前記別口預金の大部分は、既に昭和二七年一二月二二日原告会社設立以前に勘定を開いていたのであるから、同日以降の右別口預金口座への入金の大半が原告の売上として繰り入れられるならば、前記半田貞雄個人の資産の運用は殆んど否定されるわけである。のみならず、原告会社設立後は、会社から半田貞雄は給料とレて二五、〇〇〇円、店舗貸付金として一〇、〇〇〇円を、妻喜美代は給料として一五、〇〇〇円の支払いを受けているのであるから、これら取入の運用も無視している。被告は前記別口預金の出し入れ、特に預入れを目して売上の隠ぺいと主張するのであるが、現時における財産の保有は株式においてなされることが多く、その売買はいきおい預金の出し入れとして現象するのは当然である。また、前記半田貞雄は大学在学中の長男ならびに中学校通学中の女児二人を有するのであるから、その学費(大学在学者は通常月平均一五、〇〇〇円)の支出に関係して預金の出し入れが行われることももちろんである。なお、半田貞雄は、妻の姉である和歌山市黒田郵便局係員の東山あや子からの依頼により、同人の親籍、知人から郵便定期預金を集め、これを一時預金していたことなどがあつて、これも前記別口預金の出し入れに関係しているのである。

(三)  被告は、前記別口預金において原告が「売上等の利益の隠ぺい」をしていると主張するのであるが、「利益の隠ぺい」という以上入金分から出金分を差引いてもなお増加分が存在することを指すものと考えられるので、以下本件係争各事業年度毎にその有無を確めてみると、

(1)  第一事業年度分

(イ) 入金分(ただし利息記入分を除く)

(a) 〇-一八六普通預金太田京子(和歌山信用金庫) 二、四四一、〇九五円

(b) 普通預金則岡花枝(右同金庫) 三二五、〇〇〇円

(c) L一〇六月掛、日掛預金半田喜美代(右同金庫) 三、三〇〇円

(d) G一六七 右 同 二二、〇〇〇円

合計  二、七九一、三九五円

(ロ) 出金分

(a) 〇-一八六普通預金太由京子(和歌山信用金庫) 二、八八六、三三〇円

(b) 普通予金則岡花枝(右同金庫) 一二〇、〇〇〇円

(c) L一〇六月掛、日掛預金半田喜美代(右同金庫) 〇円

(d) G一六七右同 五、〇三九円

合計  三、〇一一、三六九円

差引出金分 二一九、九七四円

(2)  第二事業年度分

(イ) 入金分

(a) 〇-一八六普通預金太田京子(和歌山信用金庫) 一、四七六、九三九円

(b) 普通預金則岡花枝(右同金庫) 二五五、〇〇〇円

(c) L一〇六月掛日掛預金半田喜美代(右同金庫) 三三、〇〇〇円

(d) G一六七 右 同 二七、五〇〇円

(e) 四六一九普通預金太田京子(紀陽銀行本店) 一、五一六、七五九円

合計  三、三〇九、一九八円

(ロ) 出金分

(a) 〇-一八六普通預金太田京子(和歌山信用金庫) 一、五一一、〇九〇円

(b) 普通預金則岡花枝(右同金庫) 四八一、三七五円

(c) L一〇六月掛日掛預金半田喜美代(右同金庫) 五、四二二円

(d) G一六七 右 同 〇円

(e) 四六一九普通預金太田京子(紀陽銀行本店) 五八〇、〇〇〇円

合計  二、五七七、八七八円

差引入金分 七三一、三二〇円

(3)  第三事業年度分

(イ) 入金分

(a) 〇-一八六普通預金太田京子(和歌山信用金庫) 五九〇、〇〇〇円

(b) 普通預金則岡花枝(右同金庫) 〇円

(c) L一〇六月掛日掛預金半田喜美代(右同金庫) 三三、〇〇〇円

(d) G一六七 右 同 二七、五〇〇円

(e) 四六一九普通預金太田京子(紀陽銀行本店) 七六一、九〇七円

合計  一、四一二、四〇七円

(ロ)出金分

(a) 〇-一八六普通預金太田京子(和歌山信用金庫) 六〇〇、〇〇〇円

(b) 普通預金則岡花枝(右同金庫) 〇円

(c) L一〇六月掛日掛預金半田喜美代(右同金庫)

(d) G一六七 右 同 〇円

(e) 四六一九普通預金太田京子(紀陽銀行本店) 一、七〇八、六四五円

合計  二、三〇八、六四五円

差引出金分 八九六、二三八円

となり、第一、三両事業年度分においてはかえつて出金分が多く、第二事業年度分においてようやく入金分が多く認められるが、それも右三事業年度を通じてみるときは、結局三八四、八九二円だけ出金分が多く計算される程度であつて、到底右各預金に原告会社の売上を隠ぺいしているものとは認められない。

(四)  してみると、被告は、原告会社の申告売上額に前記別口諸預金中の金額を売上額として加算することの合理性につき、いわゆる「一応の立証」も果していないのであつて、税務訴訟において課税標準の算定の正当性ないし一定の所得の存在については、課税処分の適法性ないし租税債権の成立とその法律効果を主張する被告に立証責任があるというべきであるから、被告の本件各審査決定はその要件を具備しない違法なる行政処分であつて、取消しを免れないものである。

証拠<省略>

理由

一、原告主張の請求原因事実中、一ないし四は、原告が昭和二八年一月より営業を開始したとする点を除き(もつとも、原告会社の第一事業年度が昭和二七年一二月二二日から翌二八年一一月三〇日までであることについては、原告においても自認するところである)、当事者間に争いがない。

そこで、以下被告のなした本件各審査決定の当否について判断する。

二、まず、被告の主張によれば、原告会社はその売上の九九%までが現金売上であるにもかかわらず、現金管理を行つている事跡が認められず、一ケ月ないし三ケ月毎に現金出納帳の記帳等を一括して計理上に依頼している状況であり、このように現金出納帳が相当期間遅れて記帳される場合には、いきおいその記帳も不正確、不完全となると考えられるところ、さらに原告会社内において、会社帳簿に記帳がない和歌山信用金庫太田京子名義普通預金等数口の別口預金を発見し、右預金は原告会社の簿外売上の隠ぺいに利用しているものと認めたので、原告会社の記帳のみによつては企業の実体を正確に把握することが困難と認め、そこでいわゆる推計方法(間接認定方法)によつて原告の所得金額を算出したとするのに対し、原告は、右主張事実中、別口預金を原告会社の簿外売上の隠ぺいに利用していたという点を争うほか、その他の事実を明らかに争わないのみならず、すすんで被告が原告の所得金額を算出するについて推計方法を採用したこと自体は是認する旨述べているのであるから、被告が本件係争各事業年度における原告の所得金額を推計の方法によつて算出したのは妥当な措置というべきである。

三、つぎに、被告の右推計が正当なものであるかどうか検討する。

(一)  被告は、右推計を、「被告の答弁ならびに主張」の四記載のとおり、本件係争各事業年度毎に、まず前記別口預金中原告会社の売上を隠ぺいしたと認める金額を原告記帳の売上に加算して売上金額を算定し、これに被告が妥当と認めた標準利益率を適用して営業利益金額を割り出し、さらに別個認定の営業外利益、同損失を加減して原告の所得金額を計算する方法によつた旨主張し、右方法は各基礎数額あるいは係数において正当であるならば合理的な推計方法と解せられるところ、原告は、右売上金額の推計を否認するほか、各事業年度における標準利益率、営業外利益、同損失はいずれも認めるのであるから、右売上金額の推計さえ合理的であるならば、右推計方法による原告の所得金額の算定はまた正当なものであるといわなければならない。

よつて、以下本件における唯一の争点たる右売上金額の推計の適否について考える。

(二)  この点に関し、被告は、「被告の答弁ならびに主張」の五において、まず同項所掲の諸般の事情にもとずいて前記別口預金は原告会社の簿外売上を隠ぺいするのに利用しているものと一応判断したうえ、なお万全を期すため、右別口預金の各入金項目を検討した結果、原告会社の売上と関係がないことがはつきりしている分(預金利息、株式配当金、株式売却代金、日掛預金から月掛預金等に振り替えられている分)はもちろん、個人資産の運用分ではないかと少しでも想像できる分(法人成立日の預金、法人成立直後のクーポン支払日の預金、金額が多額である点から個人預金の振替えではないかと考えられる分)までを控除し、その差引入金額をはじめて原告が明らかに売上を隠ぺいした分と認定したのであるから、被告においてむしろ余分に売上控除を行つているおそれはあつても、売上金額を過大に認定していることはないと主張し、その控除の明細を明らかにしているが、たとえば企業主が別口預金口座をもつぱら別口売上帳と同一の機能においてその売上の隠ぺいに利用しているもの(つまり当該預金口座には脱ろう売上金以外の収入その他の入金はしていないもの)と推認できるような場合であれば、その入金総額から預金利息分を差し引いた金額をもつて脱ろう売上金額と認定しうることは当然であるが、単に当該別口預金口座は企業主の売上の隠ぺいにも利用されているかも知れない程度の認定しかできない場合においては、たまたま課税権者が売上金でないあるいはないかも知れないと認定した入金額を控除したからといつて、その入金総額の残額が直ちに脱ろう売上金額であるとは推定できない。なぜならば、このように売上が隠ぺいされているかも知れない預金口座が課税権者によつて発見されたとしても、その預金権利者は必ずしも右預金の入、出金の根拠ないし経過を明らかにするとは限らないが、かかる場合、課税権者が一方的な調査によつて売上金でないあるいはないかも知れない入金項目と認定したものがいわゆる脱ろう売上金の入金以外の入金項目を網羅しているものとは断定できないところ、預金権利者において右預金の売上金以外の入金項目について主張、立証をすべき責任があるものとは解せられないから、右課税権者の認定以外の入金項目がすべて売上金の入金であると推断すべき合理的な根拠はない。

さて、以上の前提のもとに本件を眺めるに、成立に争いのない乙第一号証の一ないし五、第二号証の一、二、第三号証の一ないし五および証人森本伸、同中村正徳、同半田喜美代の各証言、原告会社代表者半田貞雄本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨を綜合すると、原告会社はもと現在の代表取締役たる半田貞雄が個人で同一場所において同一営業を経営していたものを、昭和二七年一二月二二日株式会社組織に変更して発足したものであること、所轄和歌山税務署の担当係官が原告会社の法人税に関する現況調査に赴いたところ、原告会社はほとんどが現金売上であるのに現金管理がおろそかで、現金出納帳は一ケ月ないし三ケ月毎に一括して計理士に記帳を依頼していた状況であつたばかりでなく、原告会社のレヂスターの抽斗内から原告会社名義のものを含め半田貞雄ら個人名義の日掛、月掛預金数口を発見し、あらためて原告会社代表者の実印を手掛りに銀行調査をした結果和歌山信用金庫において則岡花枝(架空)名義の預金口座を見つけ、更に原告の再調査請求にもとづいて調査を行つた際にも紀陽銀行本店ならびに和歌山信用金庫において太田京子(架空)名義の預金口座が存在することが判明したこと、以上右係官が発見したという預金は結局、和歌山信用金庫太田京子名義普通預金一(乙第一号証の二)、同則岡花枝名義普通預金(乙第一号証の三)、同L一〇六半田喜美代(乙第一号証の四)、同G一六七半田喜美代(乙第一号証の五)名義の月掛預金、紀陽銀行本店太田京子名義普通預金(乙第二号証の二)、和歌山信用金庫〇九五半田喜美代(乙第三号証の二)、同I四七半田貞雄(乙第三号証の三)同G一四六森田美有喜(乙第三号証の四)各名義の月掛預金、同B二七五半田貞雄名義の日掛預金(乙第三号証の五)であること、以上の諸預金は少くとも前記半田貞雄が実際上操作しているものであることは明らかであるが、そのいずれもが預金源が曖昧でありながら、被告担当係官からの要請にもかかわらず前記半田貞雄、妻喜美代あるいは計理士においてその入、出金の具体的説明をなさず、特に則岡花枝、太田京子名義普通預金については調査当初他人の預金である旨主張していたこと、右諸預金の入金の状況をみるに、日掛預金は一日につき三〇〇円、各月樹預金は一ケ月につき三、〇〇〇円前後が、またその他の普通預金には相当まとまつた金額がほぼ継続的に入金されていること、半田貞雄の家族は妻喜美代、大学在学中の長男および中学生の女児二人計五人の構成であるのに対し、その収入は、本件係争各事業年度当時、毎月原告会社よりの給料として半田貞雄が二五、〇〇〇円、妻喜美代が一五、〇〇〇円、原告会社に対する店舗貸付料として一〇、〇〇〇円合計五〇、〇〇〇円、その他臨時に株式配当金あるいは株式売却代金等があつたに過ぎないこと、以上の諸事実が認められるが(右認定に反する原告会社代表者半田貞雄本人尋問の結果の一部は信用しない)、右認定の事実によつては、前記諸預金にあるいは原告会社の売上金の一部が入金されているかも知れない程度の推測はできるにしても、いまだ右預金口座がもつぱら原告会社の別口売上帳と同一の機能においてその売上の隠ぺいに利用しているものとは認定できないし、また他にそのように認めるにたる証拠も存在しない。このことはまた、被告がその主張において前記諸預金の各入金項目中、原告会社の売上と関係がないことがはつきりしている分あるいは個人資産の運用分ではないかと少しでも想像できる分を各個に認定し、すすんでその控除を行つている事実すなわち被告みずから前記諸預金のすべてが原告会社の売上によるものでないことを認めている事実に徴してもいえることである(もつとも、日掛、月掛預金については、日掛預金から月掛預金に繰り入れた分と認定したもの以外に個人資産の運用分等の控除は行つていないが、右預金がもつぱら原告会社の簿外売上によつてまかなわれていることまで積極的に認定できないことは、前記判断のとおりである)。

被告は、前記認定事実以外にも、前記諸預金における入金が原告会社記帳の銀行勘定帳に記載されていない事実を挙げて、右入金が原告会社の簿外売上の入金である証左とするのであるが、もしそれが原告会社の売上に関係がない入金であれば原告会社の帳簿に記帳がないのは至極当然であるし、かりに原告会社の売上の入金としても、既に述べたとおり、原告会社の帳簿は不完全、不正確なものということであれば、その記帳洩れも考慮されるわけであるから、必ずしもすべてが簿外売上と認めることもできない。

以上、前記諸預金の実体は敍上判断の程度にしか把えられないのであるが、してみると、前記説示のとおり、右諸預金の入金総額中被告の一方的な認定により売上による入金でないと考えられる入金項目を控除した残額が直ちにすべて脱ろう売上金によるものとは認定できないのであるから、このような方法によつた旨主張する被告の脱ろう売上金に関する推計方法は到底合理的なものとして是認することはできない(被告としてあくまで右諸預金における脱ろう売上金の存在をいうのであれば、直接に脱ろう売上金による入金項目を指摘してこれを主張、立証しなければならないと解するところ、被告において何らこのような主張、立証は行わない)。

(三)  つぎに被告は、「被告の答弁ならびに主張」の七において、大阪国税局で作成している統計資料(法人審理提要)によれば、原告会社のごとき営業の売上金額は稼働人員一名当り年間二、四〇〇、〇〇〇円と算出されていることを根拠に、所轄和歌山税務署の源泉所得係において別個調査した資料によつて本件係争各事業年度における原告会社の年間平均稼働人員を認定したうえ、前記稼働人員一名当りの年間売上金額を適用して原告会社の売上金額を推計し、その推計金額が被告の本件各審査決定に際して認定した原告会社の各売上金額を上廻ることをもつて、結局右各審査決定における各売上金額の推計は正当である旨主張し、成立に争いのない乙第五号証、同号証の記載内容によつて成立の認められる乙第四号証の一、二(法人審理提要)、その様式ならびに趣旨により真正に成立したものと認める乙第六号証、第七号証の一、二、第八号証の一、二によれば、大阪国税局作成の法人審理提要の袋物、ハンドバツク、鞄等小売業(原告会社と同種営業とみられる)の欄において従事人員一名当りの年間収入金額として二、四〇〇、〇〇〇円と算出しており、また本件係争各事業年度における原告会社の年間平均稼働人員も被告主張のとおり認められ、そして右数値を基礎に原告会社の各売上金額を推計した結果がいずれも被告主張のとおりであることは計算上明白である。

しかしながら被告は、右推計の基礎となる前記法人審理提要の妥当性を成立に争いのない乙第五号証(証人調書)の記載によつて立証するというのであるが、同証人調書においてはもつぱら「法人の効率手引」なるものが証言の対象とされているところ、これが本件の法人審理提要と同一であることの確証は何もなく、また他に同法人審理提要における前記袋物、ハンドバツク、鞄等小売業の従事人員一名当りの年間売上金額がいかなる資料にもとづき、いかなる経過によつて算出されたかを認めるにたる証拠は存在しないのであるから、これを基礎としてなした前記推計の結果がはたして妥当なものであるかどうかを判断できない。

かりに、右法人審理提要が、被告主張のとおり、大阪国税局管内の法人についての各税務署における法人税調査事績のうち営業の実態を完全に把握したと認められたものを大阪国税局で収集、整理し、業種別に業況中庸のものを抽出して作成したものと仮定しても、原告会社のごとく比較的小規模の店舗販売による小売業においては、その従事員数と売上高との間にしかく密接な因果関係があると解せたいので、その従事員一名当りの平均売上金額を基礎とする推計方法は適当なものといえない。

(製造業種関係の従事員であれば、個人の平均的生産能力が当該事業の生産高ひいては売上高を決定づける重要な要素とみなされようが、原告会社のごとき販売業種においては、その売上の多寡はむしろ事業の規模、立地条件、店舗の構造、経営方針等に多く左右されるのであつて、その従事員数と売上高との索連性は比較的薄弱と考えられるのみならず、特に小規模の一般小売業ともなれば、その後事員数と売上高との比率が極めて大まかなものになることを免れないのであるから、いきおいその誤差も増大し、したがつてその従事人員一名当りの平均売上金額から逆算して総売上金額を推計する方法は到底合理的なものと解せない。)

以上、法人審理提要を根拠に被告の売上金額に関する推計を正当とする被告の主張は、いずれにしても採用の余地がない。

(四)  してみると、他に本件係争各事業年度における原告会社の売上金額について主張、立証がない本件においては、原告の確定申告額をもつて右売上金額と認定するほかはなく、各事業年度における標準利益率、営業外利益、同損失は既に争いがないのであるから、以下前記三(一)掲記の計算方法によつて原告会社の各所得金額を算定すればつぎのようになる。

(1)  第一事業年度分(五一七、二三九円)

売上額六、六〇六、六七九円、標準利益率八、九%、営業利益金額五八七、九九四円(一円以下切捨)、営業外利益 合計三三、九三九円、営業外損失合計一〇六、九九四円、差引所得金額五一七、二三九円

(2)  第二事業年度分(五一三、二〇六円)

売上額八、六〇六、一六二円、標準利益率一〇%営業

利益金額八六〇、六一六円(一円以下切捨)、営業外利益合計一〇、九〇七円、営業外損失合計三五八、一三七円、差引所得金額五二二、二〇六円

(3)  第三事業年度分(五〇二、〇六二円)

売上額八、〇六五、五七五円、標準利益率一〇%、営業利益金額八〇六、五五七円(一円切捨)、営業外利益合計一三、五〇五円、営業外損失合計三一八、〇〇〇円、差引所得金額五〇二、〇六二円

(五)  以上のとおり、被告が本件係争各事業年度分の原告の法人税につき、その所得金額を、第一事業年度分六六九、〇〇〇円、第二事業年度分六九六、六〇〇円、第三事業年度分六四〇、〇〇〇円と認定してなした各審査決定中、右(四)認定の各金額を超える部分は不当であるから、これを取り消し、右各金額の範囲内においては正当であり、その部分の取消しを求める原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小藤田常太郎 阪井いく朗 浜田武律)

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